江戸の美術:浮世絵・美人画

この章は、主として浮世絵版画の美人画で構成される。すべて江戸の地で制作されたものであり、特に前期から中期にかけての作品が充実している。

度繁画《短冊をもつ美人》は、本章の中では最も早いもので、懐月堂派による大々判23点中の1点。堂々たる立体躯(図41)の美人がが墨一色で表現されている。奥村政信と石川豊信の幅広柱絵(図42、43)はそれに続く時代のもので、同じく墨絵でありながら、筆で彩色が施されている。

その他の作品はすべて錦絵(完成された多色摺版画)作品である。特に、浮世絵では黄金期ともいわれる天明・寛政(1781〜1801)期の作品に見るべきものが多い。天明期を代表する美人画家、鳥居清長の作品《伊勢物語 芥川》(図54)は、山東京伝『絵兄弟』の先駆をなす興味深い作品であるばかりでなく、保存も非常に良く、かつ東洋文庫以外に確認されていない稀品である。寛政期に歌麿と競った鳥文斎栄之の作品では、三枚続きの《夏宵遊興》(図57)がすばらしい。栄之門の俊英、栄昌による三枚続《扇屋花扇他所行》(図58)も、女性群像が画面いっぱいに展開する華やかな作品でる。喜多川歌麿の作品では、美人大首絵の代表作のひとつ《高島おひさ》(図61)をまず挙げなければならない。申し分のない保存状態で、当時の色調を鑑賞できる逸品といってよい。色板に工夫をこらした《錦織歌麿形新模様 うちかけ》(図62)は後摺品と思われるが、保存状態は現存するものの中では最も良好で、うちかけの薄紅が鮮やかに残る唯一の伝品であるばかりでなく、浮世絵版画の制作刊行状況の考察に一石を投ずる作品でもある。歌川豊国画《丸木橋を渡る女たち》三枚続(図67)は、盲人を描いた同工図をアレンジした作品と推察されるが、これも錦絵の制作契機を考える上で興味深い作例である。江戸時代後期のものは、2種の貼込帖、『岡場所風俗図志』(図66)と『見世物絵』(図68)から、渓齋英泉と歌川国芳の作品を展示する。           

解説:千葉市美術館学芸課長・東洋文庫研究員 浅野秀剛

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