江戸の風俗:文化・娯楽

この章は、主として江戸の街の風俗を描いた浮世絵で構成される。

浮世絵は、遊廓や芝居などの遊所の風俗を描写するところから発生したが、遊所風俗のありのままをリアルに描いたわけではない。遊所の華やかで盛んな部分を、時には誇張して描出しているので、そういう意味では実相を写していたとはいえない。吉原や芝居町は常に繁栄し、高級で美人の遊女は華麗な衣装をまとって廓内を歩く。人気役者は舞台で見得を切り、その演技は常に喝采を博する、という世界である。遊女の苦しい生活や不当たりの芝居、下位の役者などは描かれない。しかし、そういった状況を江戸の人々は十分に知って、なおかつ浮世絵を楽しんでいたようである。そういう意味では、いまに残された浮世絵を含む絵画史料は、当時の社会状況を反映しているということができる。この章で展示される祭礼や納涼風俗、相撲や見世物なども、華やかな部分だけが描写されているが、時には影の部分を想像しながらも、表出された世界を楽しんでいただければ幸いである。

祭礼を描いた、鳥文斎栄之画《小舟町天王祭礼図》(図14)と鳥居清満画《浮絵御祭礼之図》(図15)は、共に新出の図であるが、栄之画の前景に立ち並ぶ人は大半が美しい女性で、2人だけ描かれる男性も共に女性同様の優男であるのは、そういった浮世絵の特質を象徴している。今のテレビドラマに出てくる男女の過半が美男美女であるのと同様と考えてよい。

歌舞伎芝居・歌舞伎役者を描いた浮世絵は本章の中心であるが、その中では、京都の大森善清画と考定される《つたかづら》(図30)の1帖と、江戸の鳥居清信画と思われる《玉沢皆之丞》と《西川岡之助》(図31、32)が特筆に値するであろう。《つたかづら》はおそらく、上方における最初の役者絵本であり、近年明らかになりつつる善清の業績のうち唯一役者を描いた絵本である。清信画の2点は類例が他にない貴重なもので、扁額様の枠の中に、全身を大きく描出したもので、当時の役者絵馬の面影を彷彿とさせてくれる。

解説:千葉市美術館学芸課長・東洋文庫研究員 浅野秀剛

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