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浙江省舟山市岱山島単档布袋戯

『薛丁山与樊梨花 三擒三放』


2005年9月6日 岱山島東沙岱山木偶劇団上演、主演王嘉庭
馬場英子撮影


 唐の太宗、高宗時代に、高句麗征伐などで数々の軍功を立てた武将薛仁貴(614-683)とその息子薛丁山(薛仁貴の息子薛訥をモデルとする架空の人物)の話は、古くから民間に流布し、元の雑劇「薛仁貴衣錦還郷」をはじめ、「薛家将」ものとして、地方劇、小説、語り物で広く親しまれてきた。 清の小説『薛仁貴征東』『薛丁山征西』『薛剛反唐』は、唐の建国の物語『説唐』の続編となっている。 舟山木偶戯で演じる「薛丁山と樊梨花(三度擒えて三度放す)」は、寒江関を守る西涼(遼)の総兵燓洪の娘樊梨花が、西涼征伐に来た薛丁山に一目ぼれし、黎山老母に学んだ術を駆使して、薛丁山を擒え、結婚を約束させるも、放すとすぐに裏切られ、三度目に、ついに結婚を承諾させるまでの駆け引き、更には、戦場での当人同士の婚約を認めない父燓洪との争い、父を死なせ二人の兄を殺すという、とどまるところを知らない巾幗英雄燓梨花の活躍を描く。
 岱山木偶劇団は、座主で前台(人形遣い・唱と語り)の王嘉庭(1952生)と「後台」(伴奏)三人から成る。専ら公的機関の依頼で上演し、一般の上演活動はしていない。(王嘉庭は、エビの養殖を副業にしている)舞台が通常の約1,5倍の大きさなのは、頻繁な移動の必要が無いからだろう。この「三擒三放」を十八番にしている。上演を依頼した当日は、20人ほど近所のおばあさんたちが見に来ていた。同じ舟山市定海の木偶戯団、侯家班との上演比較については、『浙江省舟山の人形芝居』(風響社 2011)443-463頁を参照されたい。
 なお、「中国木偶戯関係写真資料データベース」検索頁のたとえば「物語を追って見る」で歴史劇『薛丁山与樊梨花』を選ぶと、この動画の画像を見られる。動画では省略した部分も見られるので、参照いただければ幸いである。
 

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 舟山の木偶戯では、「搭脚」と呼ばれる小者が進行係を務め、舞台の最初と最後に登場して、挨拶する。
 搭脚が引っ込むと、西涼攻略に向かう唐軍陣営の場面から上演が始まる。薛丁山が登場し、寒江関攻略を父薛仁貴に相談する。父は筏を組んで渡河するように指示する。 一方、寒江関を守る西涼の総兵樊洪は、息子の樊龍、樊虎に出陣を命じるが、二人とも唐軍の羅章、薛丁山に大敗する。樊洪は妻の王氏に相談し、黎山老母の下で修行した娘の樊梨花に出陣を促すことにする。樊梨花は、師から唐の将軍と結婚する運勢だと言われていたので、父が訪ねて来ると、さっそく軍装に着替えて出陣する。
 「寒江関の小娘が出陣し、薛丁山を出せ、と喚いている」と唐の陣営に報告が入る。薛仁貴と程咬金は相談して、身の丈三尺で、空を飛び、地に潜る技をもつ秦漢と竇一虎をまず偵察に派遣する。二人があえなく退散すると、次には丁山の二人の妻秦仙童と陳金定に妹の薛金蓮の女三将軍を派遣するも、敗退。樊梨花は、丁山には、すでに二人の妻がいるのを知って愕然とするが、妹が美人なので、丁山は噂に違わぬ美男子だろうと期待する。唐軍はついに丁山出陣を決める。
(ここで休憩)
後半は薛丁山の出陣で始まる。

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 樊梨花と薛丁山の一騎打ち。美男の薛丁山に一目ぼれした樊梨花は、魔法の縄で薛丁山を縛り上げ、結婚を迫る。
 最初は強がっていた丁山も承知しなければ殺されるのではないかと恐ろしくなり、「裏切ったら宙づりにされる」と偽りの誓いをして結婚を約束する。が、縄を解かれて自由の身になるや、たちまち樊梨花を殴りつけて、戦闘再開となる。
 怒った樊梨花は、術で四方の山を動かし、丁山を閉じ込める。丁山は騎馬で走り回るが、そびえたつ山に取り囲まれ、万丈の谷に迷い込んだようで、思わず、助けを呼ぶ。

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 丁山は柴刈りに縄で吊り上げてもらうが、あと一息というところで柴刈りは消えてしまう。樊梨花を呼び、また偽りの誓いをするが、自由になったとたん、再び襲いかかる。

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 樊梨花は四方の龍王を呼んで大海原にする。丁山は溺れ、船頭に小舟に助け上げられるが、船頭は消えてしまう。樊梨花に助けを求め、今度、裏切ったら、薛一族が皆殺しになると誓う。
 丁山がついに結婚を承知すると、樊梨花は、正式に仲人を立てて迎えに来るように言う。丁山は、唐の陣営に戻り、父薛仁貴に樊梨花との結婚の承諾を願う。薛仁貴は激怒し、丁山を斬ろうとするが、程咬金に、最強の女将軍樊梨花をぜひ嫁に迎えるべきだと説得される。薛仁貴は、樊梨花を恐れて嫌がる程咬金を強引に仲人にして、寒江関に派遣する。

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 寒江関に帰った樊梨花は、父樊洪に丁山との結婚の許可と唐への降伏を求める。
怒った父樊洪は、剣を抜いて娘を斬ろうとして、足が滑り、剣がのどに刺さって死ぬ。
樊梨花は家人に棺を買って来て、父の葬式と自分の結婚の準備をするように言いつける。
 樊龍と樊虎は父の死を聞いて、仇を討とうと妹の樊梨花を襲うが、二人ともあえなく殺される。樊梨花は、母に、戦場で薛丁山と婚約したこと、唐への投降の勧めに、父が激怒して、剣を振りかざして襲い掛かってきたが、滑った拍子に剣が喉に刺さって死んだこと、続いて兄二人も殺害したことを話す。あまりのことに呆然として言葉も無い母に、樊梨花は、間もなく唐から迎えの仲人が来ると言う。

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 唐の使者の到着が報告され、仲人役の程咬金が入って来る。夫人とあいさつを交わすうち、唐軍一行も到着し、薛丁山は岳母王氏と樊梨花は舅の薛仁貴に目通りし、二人の結婚でめでたく幕を閉じる。
 (この強引な結婚はしかし禍根を残し、樊梨花と薛丁山はこの後も、離縁と復縁を繰り返すことになるが、これはまた後の話である。)