趣旨と目的

 『中国経済史用語データベース』は、中国の経済史、財政史、社会史、公文書に頻出する用語について簡明な解説を施し、これを冊子体およびインターネット可読の情報データとして利用者に提供するものであり、このベータ版はその成果内容の一端を見本として示すものである。

  本事業は平成17年度に三菱財団人文科学研究助成金を、次いで平成19-22年度に文部科学省研究費補助金《基盤研究B》を受領し、その援助の下に推進された。ここに記して深く感謝を捧げる次第である。

 中国の社会経済史にかかわる資料およびその中で常用される用語は実に厖大な数量に上る。しかし個々の用語における内包(inclusion)と外延(extension)、一般的な定義、意味内容の解釈についてはよく分かっていないものが未だあまりにも多いのが実情である。こうした知識状況の不備の一因として、資料の記録者のほとんどが知識人ないし官吏であって、記録の採り方、残し方、整理法にもかれらの関心がほぼそのまま投影されていることにも留意する必要がある。作業ではそうした不備や偏りに気をつけ、なるべく用語をバランスよく採集して解説を付するように心がけた。

 このデータベースはその利用者として主として唐・宋・元・明・清・民国期にわたる経済史・社会史の諸問題に携わる研究者・院生・学生、高校社会科の教員、それら機関の図書館、その他中国の社会経済の実態と歴史の流れに関心のある読者を念頭に置いている。そしてこれらユーザーが個々の用語を冊子ならびにPCの上で多角的に検索できるように、あらかじめ全用語が収まる大範疇(財政用語・経済用語・社会用語・公文用語)その各々に帰属する中小の下位範疇を用意した。

 用語の採集に当たっては、中国歴代の『正史』が載せる《食貨(財政・経済)》の章に対する訳註の成果を基本の資料としたほかに、『典海』、『台湾私法』、『清国行政法』、『支那経済事典』、『土地用語事典:日本・中国・満州』、『支那満州民事慣習調査報告』、『華北農村慣行調査』、『商事に関する慣行報告書』、『実地調査中国商業習慣大全』『支那の同業組合と商慣習』、『清國商業綜覧』、『支那語大辞典』、各種の『商業書』、商業書簡の用例と解説、各種専門書など、における用語解説を参考にした。公文用語の範疇の下に収めた用語は、公文書を記録し編纂するときに官吏が常用した語彙である。直接に社会経済の用語にかかわるものではないが、公文書を読解し意味内容を確かめる際に必要不可欠であるので、収録している。

 一言でいえばこのデータベースは『広辞苑』に見られるような辞典と事典の両性質を合わせた中辞典をめざしている。用語を採集する過程で、同一用語についてその類語の外延を合わせ考え、また用法における上位下位の層位関係もできるだけ留意した。従って利用者は各見出し語の項目を検索してその用語の大意を知ると同時に、その解説の文面に現れる類語ないし意味内容が近似した用語についても検索して知ることができる(冊子では総索引により、PC画面上では当該用語の箇所をクリックすることにより)。用語の詳しい沿革、制度にわたって知るためには、その趣旨で編まれた数種類の事典がすでに存在しているので、これらをさらに参照していただきたい。

 このデータベースの作成に費やした年次は限られていて、参考して補完すべき資料、専門書はまだかなり残されている。その補充はこれを後日に期する次第である。利用者の皆さんから改善をめぐりさまざまな意見をいただければ幸いである。

平成26年8月27日          研究代表者  斯波 義信