「月唐」は、主に盛唐、玄宗皇帝の御代の開元、天宝年間の歴史を題材にした英雄伝奇小説である。玄宗が月に遊んだという伝承にちなんで「月唐」と呼ばれるが、長寿で子福者として知られ、安禄山の乱を平定した郭子儀(697-781)将軍の生涯を軸に話が展開するところから、舟山では「郭子儀」と呼ばれることも多い。舟山木偶戯演目中の最長編で、侯雅飛によれば、全編上演に40日かかるという。ここでは、2006年から2009年に計20日間上演してもらい録画した中から、李白伝説にまつわる第4、第5段の一部を紹介する。
【1ー3段 郭子儀は、故郷山西に母を残して、山東節度使のおじを頼って旅立つ。途中、二龍山の英雄たちと知り合い、奸臣打倒を誓う。郭子儀は、元宵節の灯籠見物に立ち寄った長安で、李林甫のドラ息子李桂の手から故翰林学士余世南の娘余賽花(後に第一夫人となる)を救い出し、李林甫の終生の仇となる。郭子儀が山東に着いた時、おじはすでに失職し、李林甫の甥の鮑三兄弟が権勢を奮っていて、ひそかに帝位簒奪を目論む李林甫のために英雄を求めて武術大会が開かれていた。郭子儀は、試合で鮑金岡、鮑銀岡に勝利するが、二人の過失死の責任を問われて鮑銅岡に捕えられる。ところが妹の武術の達人鮑金花に惚れられ、結婚を条件に放免されるも、式当日、誤って金花の腕を斬り落とし、金花は観音に連れ去られる。二龍山の英雄たちが郭子儀救出に襲撃してくるが、混乱の中、郭子儀は、甥たちの様子を見に来た李林甫に捕まり、都に護送される。】
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第4段「李白出考」(李白、科挙受験に行く) |
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4段では、新たに李白が登場する。科挙受験に都に出て来た李白は、受付係の宦官高力士に登録料を要求されると、不当な要求だ、と主試験官の楊国忠に直訴する。楊国忠は、李白の受験は認めたものの、合格させれば自分たちの不正を暴かれて面倒だ、と、答案を無視して落第させる。
李白は宿の主人の提案で、生活費稼ぎに占いを始めると、よく当たると評判になり、李林甫もお忍びで訪ねて来る。李林甫は李白の才を見込んで、屋敷に招いて義兄弟の契りを結ぶ。
李白は、李林甫から、朝廷では渤海の信書が読めずに困っていると聞く。李林甫は、皇帝に推薦しようと言うが、李白は、奸臣の一味とみなされることを嫌い、こっそり李林甫の屋敷を抜け出して、自ら朝廷に出かける。
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黒装束、貧乏道士姿の李白が午朝門前に到着。掲示をはがして番書解読に名乗りを上げる。朝廷の場面になり、楊国忠、賀知章、李林甫、林代玉らが次々登場、最後に宦官高力士と玄宗皇帝が登場する。楊国忠、高力士は科挙試で落第にした李白が来たと知り、慌てる。
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李白が玄宗に目通りする。渤海の使い鉄陀峰が呼ばれ、李白は番書を難なく読みこなすが、鉄陀峰は、更に返書も要求する。李白は返書を書く条件を三つ挙げ、科挙受験で楊国忠、高力士から不当な扱いを受けたことを訴える。
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高力士は翰林学士に任じられた李白の着替えを手伝わされ、靴を履きかえさせる。楊国忠は、李白のために墨を磨る。玄宗は楊貴妃を呼び、李白に酒を献じるように命じる。
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楊貴妃は玄宗になだめられて不承不承、酒を注ぐ。李白が返書を書くと、鉄陀峰は更に五毒珠の説明と、鉄弓を引いて狂獣を御すことを要求。李白は五毒珠の説明をするが、後の要求については、国の棟梁となる武人が三日後に現れ解決すると言う。
玄宗は李白に「免死金牌」を賜り、披露目の城内巡幸を命じる。(午後の上演終了、4段終わり)
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第5段「開弓降獣」(弓を引き、獣を降す) |
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李林甫は、翰林学士に任じられた李白が、城内巡行の途中、屋敷に挨拶に来ると思い、
待ちかまえているが、李白は来ない。李林甫は、李白が自分に与する気が無いと判断し、今後、朝廷で自分の反対勢力になることを予想して、まずは息子の仇の郭子儀の処刑を急ぐことにする。門生で九門提督の唐仁虎を呼ぶ。
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李林甫は、門下の九門提督唐仁虎を呼び出す。唐仁虎は、丞相李林甫の意を受けて、皇帝の聖旨無しに、郭子儀処刑を実行することにして、刑場に向かう
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処刑場の場面。処刑場に唐仁虎一行が勢ぞろいすると、郭子儀が引き出される。郭子儀は、冤罪であることを訴え、李林甫を罵る。午の時一刻、二刻と処刑の時間が迫る。三刻、処刑の合図と同時に、城内巡行中の李白一行が飛び込んで来て、郭子儀を攫って行く。
唐仁虎は、李林甫に報告に行くことにして、刑場を引き上げる。
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李白に救出された郭子儀は、そのまま李白の学士府に匿われる。李林甫は、郭子儀を奪われたという唐仁虎の報告にいきりたつが、皇帝の聖旨無しに勝手に起こした騒動なので、朝廷に訴えるわけにもいかず、自ら郭子儀を奪い返しに、李白の屋敷に出向く。しかし、接客(郭子儀)中を理由に、門前払いを食う。
李白は、郭子儀に「弓を引き怪獣を降す」という渤海の難題に挑むように勧め、弓の引き方、狂獣を倒す秘策を伝授する。
李林甫は、郭子儀に難題解決の手柄を渡すまいと、娘婿の趙立を皇帝に推薦する。趙立は、自信が無いまま、やむなく挑戦するが、狂獣に食われてあえなく命を落とす。(5段午前の部終わり)
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搭脚が5段「開弓降獣」午後の部の開始を告げる。郭子儀が登場の口上を述べる。皆が見守る中、国の栄誉のために李白の教えた秘訣に随い、千斤の鉄弓を難なく引く。驚いた鉄陀峰は、続いて狂獣を引き出させる。李白は周りで火を燃やして狂獣の鋼鉄の毛を柔らかくするが、獣の勢いは衰えず、郭子儀は次第に追い詰められる。
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李白は、昨日教えた獣の弱点が「咽喉三寸」にあることを、郭子儀が忘れていることに気づき、こっそり「手骨三寸」の合図で思い出させる。李白は、「咽喉三寸」のツボを狙って、遂に狂獣に打ち勝つ。渤海の使い鉄陀峰が、負けを認めて帰国しようとしたところ、李林甫が現れ、郭子儀と改めて命がけの一騎打ちをするようにそそのかす。
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李林甫の話に乗せられた鉄陀峰は、結局、郭子儀と戦って敗れ、棺桶に納められて帰国することになる。渤海は、唐への朝貢を続けることになり、この段は終わる。
(渤海の使いの名を鉄陀峰とするのは、侯雅飛の勘違い。霊岩樵子編『月唐演義』などでは、哈蛮陀である。鉄陀峰は五代山長老、鮑兄弟の武術師匠として第3段に登場)
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