教養講座 |
辞典『ホブソン・ジョブソン』から見るアジア |
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片倉鎮郎 東洋文庫研究員 群馬県立女子大学非常勤講師 |
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インド亜大陸で使用される英語(インド英語)は、その語彙に南アジアはもちろん、西アジアから東南アジア・東アジアまで、アジア各地の言語に由来する単語やフレーズを数多く含んでいます。17世紀以降、交易による利潤を求めインド洋・シナ海を訪れる商人として、あるいは一定の領域を支配し徴税する統治者として、イギリス人がアジアの人々との交渉を深め、アジアに定着するなかで生まれた英語といえるでしょう。
今回取り上げる『ホブソン・ジョブソン』は、マルコ・ポーロ『東方見聞録』訳注などで知られるH. ユールと、サンスクリットや南インド諸語を専門とするA. C. バーネルという2人の東洋学者が、インド英語に特徴的なアジア諸語由来の日常語を収集、解説し、1886年に初版を刊行した風変わりな辞典です。両著者の没後に増補改訂された1903年版はその後イギリスやインドで何度も再刊され、一般のイギリス人には帝国時代を偲ぶよすがとして、各国の研究者には当時の英語の一側面を示す資料、あるいは当時の文献を読み解くための道具として、長く読みつがれてきました。2013年には植民地期英文学の研究者が1903年版に解題を加え若干の縮約を行った新版をオクスフォード大学出版会から上梓しています。
本講座では、『ホブソン・ジョブソン』誕生の歴史的背景を1601年のイギリス東インド会社設立に遡って解説したうえで、現代南アジアの英語メディアでもよく使われる単語、日本語由来の単語、アジアから英語を経由して日本語にも入った単語など、同書のいくつかの項目を紹介し、原文を示しつつ解説していきます。そしてさらに、同書を手がかりとして、当時の英領インドで書かれた英語の文章を一緒に読んでみましょう。具体的には、1905年にベンガル人女性フェミニストがマドラス(現チェンナイ)の婦人雑誌に発表した短編小説「スルタナの夢」を取り上げます。インド・ムスリム社会の女性隔離慣習が反転したかのような男性隔離制度をもつ架空の国「レイディランド(女人国)」を描き、現代でいうジェンダーSFのはしりとして世界的に知られている未邦訳の作品です。なお、奇遇ながら、今年の東京国際映画祭(10/23~11/1)では、同作品をモチーフとする同名のアニメーション映画『スルタナの夢』(スペイン、2023年)の上映が予定されています。
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【講座コード】 20231101 |
【金額】 全回5,800円(友の会会員5,220円) |
【持ち物】 |
【講座期間・曜日】 2023年11月22日〜2023年12月6日 水曜 |
【カリキュラム】 |
第一回 | 2023年11月22日 | 水曜日 | 18:00〜19:30 | 教室:2階講演室 | 『ホブソン・ジョブソン』を知る、読んでみる
まずは『ホブソン・ジョブソン』という、辞書としてはやや奇異に響く名前の由来をはじめ、本書が生まれるに至るアジアの歴史を学びます。そして、実際にいくつかの項目を一緒に読み、歴史資料としての本書を味わってみましょう。 |
第二回 | 2023年12月6日 | 水曜日 | 18:00〜19:30 | 教室:2階講演室 | 『ホブソン・ジョブソン』を使ってみる
前回の内容を踏まえ、今度は本書を出版当時のインドで書かれた文章を読むための手がかりとして使ってみます。
短編小説を題材として、講師による時代・社会背景の解説を挟みつつ、一緒にその内容を読み解いていきましょう。 |
英語で書かれた辞書の項目や小説を読みますので、英文法の基礎的な知識は必要ですが、流暢に読み書きできる必要はありません。
講師が日本語で解説し、必要に応じて日本語訳を示します。
英米社会の言語としての英語ではなく、アジアで使われる言語としての英語を通じて、アジアの歴史に触れていただくことが本講座のねらいです。
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